
丹生川上神社
Niu-Kawakami-jinja Shrine
丹生川上神社の予備知識
丹生川上神社は水神を祀る神社で、奈良県の吉野川上流域に鎮座しています。中社、上社、下社の三社があり、それぞれの流域を守護しています。
丹生川上神社の所在地
中社、上社、下社の三社があり、無印の場合は中社を指すことが多いようです。いずれにせよ、紛らわしい名前です。参拝の順序にこだわる必要はないと思いますが、それぞれ名前と位置関係をしっかりと把握しておきましょう。
中社
吉野川の支流、高見川沿いに鎮座するのが中社です。最も東にあります。
上社
吉野川(紀ノ川)本流の大滝ダム付近に鎮座するのが上社です。
下社
吉野川の支流、丹生川沿いに鎮座するのが下社です。最も西にあります。
三社並立の経緯
素人のざっくりした解説ですが、三社並立の経緯は概ね以下の通りです。厳密には違うかもしれませんので、ご了承ください。
延喜式
丹生川上神社の名は平安時代(10世紀)の『延喜式』という法典に記されています。しかし、応仁の乱(15世紀)により神社が焼失したか衰退したかで、その所在地がわからなくなってしまいました。
下社と上社でワンセット
明治四年(1871)、それまで有力視されてきた丹生川流域の丹生神社(現:下社)が丹生川上神社を名乗りました。しかし、史書に記述された位置情報と矛盾点があることから、明治二十九年(1896)、川上村の川上神社(現:上社)を丹生川上神社の奥宮とすることで辻褄を合わせました。
中社の参入
ところが、東吉野村の蟻通神社(現:中社)こそが丹生川上神社であるとする説を同村出身の研究者が主張。この説が大正十一年(1922)に政府から認められ、結果として三社とも同一の『官幣大社丹生川上神社』となりました(中社、上社、下社という呼称もこの時に成立)。
現在
現在、三社は別神社として独立していますが、三社巡りを推奨するなど、協力関係にあることが伺い知れます。
丹生川上神社の祭神
中社主祭神 | ミヅハノメ(罔象女神 / 弥都波能売神) Mizuhanome-no-kami |
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上社主祭神 | タカオカミ(高龗神) Takaokami-no-kami |
下社主祭神 | クラオカミ(闇龗神) Kuraokami-no-kami |
いずれも、『古事記』や『日本書紀』に登場する、水を司る龍神です。その時々で、それぞれ別の神様とされたり、同一神とされるケースがあるようです。
ちなみに、ミヅハノメは人気アニメ映画『君の名は』のヒロイン「三葉」(ミツハ)の名前の由来と言われています。
丹生川上神社を主観的に格付け
由緒
ただし、中社の社伝には白鳳四年(675)創建と記されているようです。飛鳥時代、第40代天武天皇の在位期間です。
社格
一宮でもなければ神宮号を拝するわけでもありませんが、その割にはかなり高い社格を有しています。
知名度
近年のパワスポブームと『君の名は』の影響が相まって、知名度が急上昇しました。しかし世間一般的にはマニアックな神社と言えるでしょう。
アクセス
- 中社:奈良交通バス『東吉野村役場』→コミュニティバス(一部予約制)乗車15分『蟻通』すぐ
- 上社:奈良交通バス『湯盛温泉杉の湯』→徒歩15分
- 下社:奈良交通バス『長谷』→徒歩3分
限りなく星1に近い星2です。酷道険道損道ではありませんが、1日で3社を廻るのは結構しんどいです。
バスもありますが、運行本数はお察しください。特に東吉野村のコミュニティバスは曜日や時期によって運行形態が変わるようなので事前に要チェックです。
スケール
三社とも境内は広くありませんが、特に上社は雄大な景色も見られて、それなりにスケール感があります。
観光
温泉やキャンプへ行くついでに立ち寄る程度の感覚で良いかと思います。
パワー
三社とも清流にほど近く、マイナスイオン効果(古い)を享受できます。
丹生川上神社中社
高見川の川沿いにクネクネと山道を進んでいけば中社に到着します。一部、道幅の狭い区間もありますが、通常期であれば車も少ないので、運転し辛いことはありません。
ここはかつて『蟻通明神』と呼ばれていたそうですが、名前の由来は諸説あるようです。私個人的には、吉野から伊勢へ抜ける近道という意味でそう呼ばれたのかなと考えています。
境内
白い旗と朱色の鳥居が出迎えてくれます。拝殿前の「龍神」の筆書きがかっこいいです。私も神社巡りを始めてから知ったのですが、古代人にとって川は水龍そのものなんですね。
本殿・拝殿
拝殿奥の階段が本殿に繋がっているようですが、外から見るのは難しそうです。また、拝殿では後で紹介する滝に投げ入れるための龍玉を購入できます。
ツルマンリョウ自生地
本殿背後の山腹はツルマンリョウという常緑小低木の自生地となっているそうです。普段、神社関係者以外は立ち入ることはできません。
大杉
拝殿右手の大きな木が『叶えの大杉』と呼ばれる、樹齢千年以上とされる大杉です。拝殿左手奥にも『相生の杉』という二本の大杉があります。
なでふくろう
拝殿右手の大杉の手前に「撫で梟」があるようです。すいません、見た覚えはあるのですがあまり気に留めてなかったです。「撫で兎」や「撫で牛」なら他所でも見ますが、フクロウは珍しいですね。



境外
いったん鳥居を出て、川の上流に向かって100mほど歩けば車が通れる赤い橋『蟻通橋』があります。さらに、その50mほど先に『夢橋』という赤い吊り橋があります。
夢淵・東の滝(龍神の滝)
夢橋を渡れば、エメラルドグリーンの清流を間近に見られる癒しスポット(とキャンプ場)があります。
誇張抜きで、本当にエメラルド色です!
このあたりは高見川とその支流の合流地点です。神武天皇の東征神話に登場する地名にちなんで『夢淵』と呼ばれています。神武天皇はここで吉凶占いをした後、橿原で天皇に即位したとされています。
夢淵の一角に綺麗な滝があります。神社の拝殿で購入した龍玉をここの滝壺に投げ入れれば願いがかなうそうです。私はそういうのを全く信じないのですが、なんとなくやってみたかったので、やってしまいました。
神武天皇聖蹟顕彰碑
境内へ戻るついでに、蟻通橋のほうも渡っておきましょう。橋を渡って左手に神武天皇聖蹟顕彰碑があります。初代天皇である神武天皇の顕彰碑で、ここ以外にも全国に何箇所かあります。いずれも神武天皇ゆかりの地(の比定地)で、昭和十五年(1940)、当時の政治的背景により建立されたものです。
丹生神社
顕彰碑から見て道路を挟んで向かい側に、中社の摂社である『丹生神社』があります。『本宮』という案内看板があったので、おそらく中社はかつてこの場所にあったと思われます。





丹生川上神社上社
国道(R169)沿いの大きなダム湖の近くにあります。道の駅近くの大きな交差点を曲がって、坂道を少し登りますが、特に運転しにくい道ではありません。しかし境内の駐車場が厄介で、切り返しほぼ必須な急勾配を登る必要があります。現在の駐車場はバリアフリー専用にして、下に広い駐車場と歩道を整備してほしいものです。石段を登ること自体がイベントだと思えば、悪い気もしないと思うのですが。
おおたき龍神湖
上社は『おおたき龍神湖』というダム湖の近くにあります。既にお察しかと思いますが、現在の社殿は大滝ダムの建設に伴い、平成十年(1998)に旧社地から遷されたものです。ダム湖の名称は公募で決まったものだそうですが、相応しい名前だと思います。神社が川とダムを見守ってくれているように思えます。
境内
先述の通り、つい四半世紀前に建造された社殿なので、歴史の深みのようなものは感じません。でも、山奥にあってピカピカでしかも見晴らしが良い神社というのは、これはこれでレアなものです。NEW川上という言葉がぴったりです。
本殿・拝殿
本殿と拝殿はつながっており、拝殿には神雨霑灑の額が掲げられています。神による恵みの雨が大地を潤し穢れを洗い流す、のような意味だと思います。
末社
拝殿に向かって右手に、第40代天武天皇を祀る『川上社』があります。また、拝殿の左手奥には中社の主祭神であるミズハノメ(弥津波能売神)を祀る『水神社』など、複数の末社があります。




丹生川上神社下社
天川村へ向かう国道(R309)から県道に入り、丹生川沿いに200mほど進んだところにあります。国道309号線ことサンマルクは、山間部へ入る手前あたりで急カーブが連続します。注意して運転してください。
丹生川
下社は丹生川の上流にあるので、ここが長らく『丹生川上神社』とされてきたのは道理にかなっています。そもそも丹生というのは辰砂つまり硫化水銀のことで、朱色の塗料として古くから用いられてきました(例えば鳥居とか)。しかし、この丹生川流域で辰砂が採れたかどうかは不明なようです。
境内
三社の中でスケールは最も小さく感じます。その代わり、飾り気のない素朴な良さがあります。個人的には三社の中で一番気に入っています。
神馬
白と黒の神馬さんのお姿が目に入ります。優しくて人懐っこいお馬さんなので、脅かさないようにそっと見守ってあげましょう。
実は、白と黒の組み合わせには意味があります。雨を祈願するときは黒馬、晴れを祈願するときは白馬を奉納する儀式がかつて存在していたようです。長らく途絶えていましたが、平成二十三年(2011)の紀伊半島大水害を受け、その復興祈願として翌年に執り行われました。そのときに奉納されたのが、おそらく今の子たちだと思われます。
本殿・拝殿
中社と同様、拝殿と奥の本殿が階段で繋がっています。普段は一般の参拝客は立ち入ることができないようです。









丹生川上神社の御朱印
それぞれ個性があって、どれも良いと思います。


