和歌山市をLRTで活性化するでよぉ

和歌山市をLRTで活性化するでよぉ

和歌山市はかつて全国でも有数の大都市でしたが、現代では衰退傾向にあります。そんな和歌山市をLRTで活性化できるのかを検証します。

和歌山市の現状

端っこの県都

和歌山市は言わずと知れた和歌山県の県庁所在地です。山がちな県土の西北端に位置し、大阪市内へはJRや南海電鉄の特急列車で1時間以内にアクセスできます。一方で、県南部へのアクセスはその倍以上の時間を要します。

昔は大都市だった

江戸時代は徳川御三家の一つである紀州藩の城下町として栄えました。近代以降も製鉄業などで繁栄しましたが、それらは海外との競合などにより衰退傾向にあります。

2015年時点での和歌山市の人口は約35万人で、県庁所在地としては標準レベルです。しかし人口減少率が高く、衰退する県庁所在地の代名詞のように語られることがあります。特に中心市街の空洞化が激しく、アーケード街である『ぶらくり丁』がシャッター街の代名詞として紹介されることが多いです。

中心市街の衰退原因

もちろん市や県の人口減少も大きな要因でしょうが、中心市街の衰退要因は他にもいくつか挙げられます。

郊外の大型店

中心市街地へ行かずに、車で郊外の幹線道路沿いにある大型ショッピングモールへ行ってしまうパターンですね。どこの地方都市でも多かれ少なかれ発生している問題です。ただ、これはこれで中心市街への過剰な車の流入を防ぐ効果もあるので、あながちデメリットばかりでもないかと思います。

ストロー現象

津市の記事でも触れましたが、和歌山市の場合も県外の大都市へアクセスしやすいことでストローされてしまったことも大きいです。和歌山市をスルーして大阪へ行ってしまうパターンですね。

しかも和歌山市は県の端っこなので、県内他地域からのアクセスが不便です。橋本あたりだと和歌山市よりも大阪へ行くほうが早いですし、新宮あたりだと名古屋へ行くのと変わらないです。白浜空港から東京へ行ってしまうケースもあるでしょう。

広い市街地

先ほど「昔は大都市だった」という話をしましたが、和歌山市の場合はそれが仇になってしまった面もあります。

和歌山市の市街地は概ねJR和歌山駅から南海和歌山市駅に至る広いエリアです。両駅の直線距離は2km強で、これは福岡でいえば博多から天神までの距離よりも長いです。福岡よりはるかに人口の少ない和歌山で、これだけ広い市街地を維持するのはなかなか至難の技です。少ないパイを奪い合う状況に陥りやすいと言えるでしょう。

市電の廃止

広大な市街地の中でも特に中心市街と呼べる存在だったのが、先に述べた『ぶらくり丁』の周辺エリアです。このエリアにはかつて市電が通っていましたが、昭和四十六年(1971)に廃止されました。

その為、中心市街が陸の孤島化…というのは流石に大袈裟ですが、市民の足が遠退いたのは事実だと思います。

LRT構想ルートを歩いてみよう

さて、中心市街地をLRT敷設(というか復活)で活性化できるかどうかについて、実際に現地を歩いて検証してみたいと思います。

地図の青色で示したルートが私が思うベストなルート案です。市のHPなどで公開されているLRT構想とほぼ同じです。JR和歌山駅前から和歌山城付近を経由して南海和歌山市駅前を結ぶ約2.7kmのルートです。以降、前者を「和駅」、後者を「市駅」と表記します。

電停の場所や名称に関しては完全に私案ですので予めご了承ください。ちなみに、灰色の線は過去に廃止された市電のルートを各所の情報から推定したものです。

和歌山駅周辺

和駅こと和歌山駅は県内最大のターミナル駅です。大阪と和歌山県南部を結ぶ特急列車『くろしお』号が停車します。また、JRだけでなく和歌山電鉄も使用しており、改札内に改札があるので初見だと戸惑うかもしれません。

駅のメインゲートは西口であり、周辺には近鉄百貨店や中高層ビルが立ち並んでいます。そこそこ都会的な景観ですが、少しだけベッドタウン感も漂います。LRTはここから西へ伸びる「けやき大通り」を通って和歌山城方面へ向かうことになります。

和歌山電鉄の本気

ところで、和歌山電鉄についても少しだけ触れておきます。猫の駅長で世界中に知れ渡ったローカル私鉄ですね。私が乗車した列車は乗客の過半数がインバウンド客でした。

車体に猫駅長の肖像が描かれていたり、車内に子供が遊べるスペースがあったりと、とにかく気合いの入りようが半端ないです。LRTに同じことを求めるわけではありませんが、成功するにはこのぐらい思い切ったことをやるだけの経営判断が必要なのかもしれないですね。

けやき大通り

さて、和駅の西口を起点に、けやき大通りに沿って西の和歌山城へ向かって進みましょう。けやき大通りは8車線もある広い道路です。これなら、LRTを敷設するだけの余裕は十分にありそうですね。

美園町

ロータリーのすぐ先に国体道路との大きな交差点がありますが、地下道で渡ることができます。渡った先が美園町で、この辺りも飲食店やオフィスビルがそれなりに多く立ち並んでいます。しかし、和駅から200m程度の距離なので、あえてここに電停を設置する必要は無いかなと思います。

柳通り

和駅から600mほどの距離に『柳通り』との交差点があります。和駅から見て一つ目の電停はこの付近に設置するのがちょうど良いと思います。ちなみに、ここから北へ行った新内あろち地区は大人の飲屋街です。

電停の名称は例えば「柳通り・新内」のように、町名だけでなく交差する通りの名称とセットにすれば利用者が市街地の地理感覚を掴みやすくなると思います。

大新通り

先ほどの柳通りとの交差点から僅か200mほどですが、『大新通り』との交差点あたりにも電停を設置するのが良いと思います。名称は「大新通り・坊主丁」なんてどうでしょう?

寂しい通りですが、この通りを350mほど北へ進むと『東ぶらくり丁』の入口があります。要するに「ぶらくり」界隈活性化対策の一環です。

築地通り

大新通りとの交差点からさらに西へ進み、和歌川を渡れば築地通りとの交差点があります。築地通りは4車線の道路で、市堀川以北には歩道アーケードもあります。

先ほどの電停から400mほどですが、この付近にも電停を設けましょう。名称は「築地通り・三木町」とします。市駅から1.5km、和駅から1.2kmの地点です。

ここから北へ400mちょっとで『中ぶらくり丁』と『ぶらくり丁』の入口に到達できます。歩道アーケードを少し南へ伸ばせば電停から傘をささずに歩いて行けますが…無理ですかね? アーケードは駅や電停に直結してこそ真価を発揮するものだと思います。

ちなみに、この交差点の南側は『屋形通り』という名前で、やはり4車線の広い道路となっています。こうして見ると、改めて市街地の大きさを実感します。

本町通り

さて、築地通りとの交差点からさらに西へ300mちょっとで本町通りとの交差点に到達します。交差点の先には和歌山城が見えています。

本町通りは2車線の道路ですが、歩道が綺麗に整備されており、電柱も地中化されています。洗練された雰囲気を醸し出しており、中心市街のメインストリートと呼んでも支障ありません。

もちろん、この付近にも電停を設置しましょう。和歌山城の入口にも近いので、名称は「本町通り・和歌山城前」とします。市駅から1.2km、和駅から1.5kmの地点です。

また、ここから本町通りを北へ450mほど歩けば『ぶらくり丁』の入口があります。微妙な距離ではありますが、大きな交差点も無く歩きやすい通りなので、心理的には近く感じます

ちなみに、旧市電はこの本町通りを通るルートだったようです。このルートだと、たしかに「ぶらくり」界隈への恩恵は大きそうです。しかし、今さら本町通りの車道を潰してまでこのルートを復活することもないでしょう。新時代のLRTはもっと広い通りに通すべきです。

和歌山城ホール前

さて、8車線の『けやき大通り』ですが、本町通りとの交差点を越えたあたりから様相が変わります。和歌山城の堀の為だと思われますが、車線数が一気に4車線まで減少します。私は以前、ここで渋滞に巻き込まれた記憶があります。特にピンポイントでこの付近に用事があったのではなく、たまたまナビにこのルートを案内されただけです。

もしここにLRTを敷設するとなれば、道路は2車線になってしまいます。ならばいっそのこと、この区間は歩行者とLRT専用の道にしてしまうのはどうでしょう? バスも通れなくなりますが、市駅と和駅を結ぶバス路線は全て本町通りと築地通り経由に振ってしまえば良いと思います。そうすれば「ぶらくり」界隈の活性化にも繋がります。

この区間には和歌山城ホールや市役所があります。市役所の正面あたりにも「和歌山城ホール・市役所前」みたいな名前の電停を設けるのが良いでしょう。市駅から900m、和駅から1.8kmの地点で、和歌山城の撮影スポットもあります。和歌山城の観光需要は他県人が思う以上に大きく、この付近のバス停では多くのインバウンド客が乗降しています。

ぶらくり界隈

さて、和歌山城前から市駅方面へと向かう前に、いったん大新通りまで戻って「ぶらくり」界隈を東から西へと散策しましょう。先の本町通りや築地通りを北へ400-500mほど進めば到達します。

東ぶらくり丁

まずは『東ぶらくり丁』から。大新通りから和歌川の手前までの200m弱を結ぶアーケード街です。ほぼシャッター街となっています。

中ぶらくり丁

和歌川の橋を渡り、築地通りと交差するまでの60mを結ぶアーケード街が『中ぶらくり丁』です。ゲーム屋さんが一際目立ちます。その隣の定食屋カフェは最近できたっぽいですが、なかなか良さげです。

案外、プチ日本橋のようなオタク街を目指せば成功するかもしれません。そっち方面は意外とインバウンド需要もありますし。

築地通り

中ぶらくり丁を出ると、築地通りに交差します。交差点付近にドンキホーテがあります。かなり大きな店舗で、「ぶらくり」界隈へ行く時の目印になります。

先述の通り、この通りには歩道アーケードがあります。LRTの電停まで傘をささずに歩いて行ければ理想です

ぶらくり丁

築地通りを渡れば『ぶらくり丁』です。本町通りまでの200m強を結ぶアーケード街です。

インド料理屋さんや定食屋さんが頑張っていますね。気軽に入れそうな雰囲気です。どうせなら、お寿司屋さんやアジア各国の料理屋さん、あと和歌山だけにトルコ料理屋さんなんかもあれば国際色豊かで賑やかな通りになりそうだと思いませんか?

本町通り

『ぶらくり丁』を西へ西へと進むと、本町通り沿いにある『フォルテワジマ』が視界に飛び込んできます。デパートのような建物ですが、それもそのはず、ここはかつて丸正まるしょうという百貨店だった場所です。現在は複合型商業施設となっていますが、そこそこ賑わっています。歩き疲れたら地下階のスーパー銭湯でくつろいで行きましょう。

それにしても、洗練された雰囲気のある通りで、バス停も綺麗に整備されています。LRTのルートからは外れても、その代わりバスが頻繁に来る通りであってほしいものです。

北ぶらくり丁

ぶらくり丁はこれで終わりかと思いきや、まだあります。『ぶらくり丁』の100mほど北側に平行して『北ぶらくり丁』があります。

たぶんシャッター街だろうなと思いきや、その日はたまたまイベントがあったせいかもしれませんが、たいそう賑わっていました。普段からこれくらいの賑わいがあればいいですね。集客ポテンシャルの高さを知らされた気がしました。

和歌山市駅周辺

さて、いったん市役所前に戻り、LRTルートに沿って市駅を目指しましょう。

国道26号線

市役所のある和歌山城西北角のあたりで『けやき大通り』は終わり、幹線国道である26号線に交差します。

このあたりがLRT敷設にあたって最大の難関になりそうな気がしています。26号線は4車線の道路で、このうち2車線を潰さないといけなくなります。電停を設けるのも難しそうに見えますが、どうなんでしょう?

市道和歌山市駅前線

26号線を500mほど北上すると、西北に分岐する『舟大工町』交差点があります。分岐路は市道和歌山市駅前線で、その名の通り市駅までを結んでいます。

交差点には歩道橋もあるので、この場所の市道側にも電停も設けてはどうかと思います。阪堺電車の天王寺駅前駅みたいに、歩道橋を電停までメインゲートとする形です。名称は『舟大工町・ぶらくり通り』のように、『ぶらくり丁』の延長線上にあることを強調しましょう。

市駅からの距離は僅か300mほどですが、なぜこの場所に電停を設置するかというと、市駅から「ぶらくり」界隈へのアクセスの為です。市駅から『ぶらくり丁』まで直線距離で500-600mですが、その割には結構遠く感じます。実際に歩く距離が700-800mあり、しかも国道26号線を横断しにくいのが主な理由だと思います。

なので、26号線を跨ぐ歩道橋の直下に電停を設置することで、市駅から「ぶらくり」界隈への精神的距離を短縮する効果が期待できます。もっとも、26号線沿いに電停を設置できるのであれば、それに越したことはないと思いますけど。

和歌山市駅

ようやく、市駅こと和歌山市駅に到着しました。駅ビルは『キーノ和歌山』という令和二年(2020)に開業した複合商業施設になっています。飲食店街やホテル、それに図書館などもあり、ここだけで半日潰せます。

ちなみに、市駅は南海電鉄の駅ですが、実はJR紀勢本線も乗り入れています。つまり、市駅と和駅を結ぶ鉄道路線は既に存在しているのです。しかし、中心市街を通らないことに加え日中の運行本数が1時間に1本しかありません。LRT敷設という観点で見れば足枷のようにも見える路線ですが、棲み分けができれば理想ですね。

改めて検証してみる

さて、これまで歩いたルートを振り返り、改めてLRT敷設の可否と効果について検証してみます。

他都市との比較

LRTを敷設したところで、本当に使う人いるのか、街の活性化に寄与するのか、不安になりますよね。そういう時は、現に路面電車のある他の県庁所在地と比較してみるのが一番です。

高知市

高知は市も県も人口が和歌山より若干少ないです。その高知市ですが、中心市街は和歌山市よりも遥かに栄えています。路面電車を運営する『とさでん交通』も黒字を達成しています(自治体からの補助金込みではありますが)。

高知市ができて、和歌山市ができない理由があるのでしょうか? あるとすれば、先に述べたストロー効果と、市街地が分散しすぎているという点ですかね。

宇都宮市

JR宇都宮駅と東武宇都宮駅に分かれているという点において和歌山市と共通していますが…すいません、ちょっと相手が悪かったようです。

LRTの成功例として知られていますが、現路線はJR駅と郊外を結んでいます。今後はJR駅から東武駅方面へ延伸する計画があるようで、その動向に注目したいですね。

鹿児島市

鹿児島市の人口は和歌山市の1.7倍程度です。でも、鹿児島市って、初見だとびっくりして腰抜かすくらい都会なんですよ! 体感的に、和歌山の10倍くらい栄えています。

そんな鹿児島を比較対象にした理由は、市街地を走る路面電車が和歌山のLRT構想ルートとほぼ同じ距離だからです。鹿児島中央駅を和歌山市駅、天文館界隈を「ぶらくり」界隈に、鹿児島駅を和歌山駅にそれぞれ見立てて考えればイメージしやすいと思います。

和歌山は大阪へのストロー効果があるにせよ、逆に大阪南部から集客することだってやろうと思えば可能ですし、インバウンドも集客しやすい立地です。だとすれば、和歌山だって鹿児島の2/3くらいの活気はあっても良さそうなものです

鹿児島の場合、中心市街である天文館が路面電車のルートに直接面しているのが強みですね。逆に言えば、もし路面電車を廃止していれば天文館が衰退して和歌山と同じような都市構造になっていた可能性も無いとは言い切れません。

バスではあかんの?

LRTへの反対意見としてよく目にするのが「バスで十分だろう」というものです。たしかに、バスの方が費用面など運営側のハードルは低いと思います。しかし、利用者目線だとバスよりLRTのほうがメリットがあります。具体的には以下のような点です。

路線網が地図に載る

これは本当に大事です。地図に路線が載っているだけで「どこで乗ればどこに行けるか」を直感的に把握できますが、バスではそうもいきません。

経由地が分散しない

バスの場合は出発地と目的地が同じであっても、系統がたくさんあって経由地が分散されることが多いので、経由地ピンポイントでの運行本数が少なくなります。その点、LRTではそこまで分散されないので、中間地点でもある程度の運行本数が確保できます。

渋滞に巻き込まれない

LRTは専用軌道を通るため、基本的には渋滞に巻き込まれることはありません。

絵になる

要するに映えるかどうかですね。バスが映えないと言っているわけではありませんが、それだけだと普通のベッドタウンぽく見えてしまいます。やはり、お城と路面電車の組み合わせは「ザ・県庁所在地」という印象を強烈に与えるものです。そういう心理的な要素は街の繁栄や衰退と深い関わりがあると思います。

総括

いかがでしたか? 私は地元民ではないので考察不足な点もあるかと思いますが、和歌山愛が伝われば幸いです(笑)

本当は和歌浦や紀三井寺付近を経由してマリーナシティを目指す路線についても実現してほしいのですが、それに関しては別の機会にできればと思います。

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